望んでも、叶わない。
手を伸ばしても、届かない。
ここに居るのは、俺一人だけ。
誰も、俺を見ていない。
そんな事、始めから気が付いていたんだ。
ただ、ずっと…それに気が付かないフリをしていただけ。
必要なのは、「伊織順平」じゃない。
ペルソナを使える、誰か。
…ただ、それだけ。
それを証明するかのように、誰もが、本当の俺を見ない。
陽気で、お調子者の…上っ面の俺しか…見ていない。
「…まあ…そんなもんだよな」
ぼんやりと、窓の外の緑色の空に輝く巨大な月を眺めて呟く。
真夜中のコンビニ。初めて、影時間に落ちたあの時。
忽然と姿を変えた世界に戸惑い、彼方此方から湧き出し這い寄って来るシャドウへの恐怖で、身動き取れなくなった俺を助け出してくれたあの人も、ただ、影時間に適応していたからこそ、手を差し伸べてくれたのだ。
別に…それが俺であっても無くても構わなかったのだ。
その証拠に、ペルソナの能力の無かった頃は…俺の事なんか知りもしなかったんだから。
…そう。
誰も、俺を必要としない。
「…そんなことは、始めから判ってる事じゃねぇか」
こんな自分を誰が必要だというのか?
ペルソナの能力に目覚めたことで…少しでも自分を見てくれる人が出来るんじゃないかって、期待したのに。
現実は少しも甘くなくて。
結局、必要とされているのは自分ではなくて、ペルソナ。
しかも、そのペルソナの能力だって…結局はたいしたものじゃない。
何をするのも、中途半端なその能力は…まさしく自分そのもの。
結局、何をやっても…駄目なのだ。
誰も自分を見ちゃくれない。
それも、そのはずだ。
みっともなくて、ろくでもない…こんな自分なんか…オレだって見たくない。
テーブルの上に転がったまま月の光を受けている銃の形をした 召喚器を見て、順平が自嘲する。
君は、特別な力があるんだ。
君は、必要な存在なんだ。
あの時…召喚器を受け取った時に感じた高揚感。
あれは、全てまやかしだったのだ。
ペルソナを呼ぶ力…確かにそれは特異なものだ。
でも、それは…自分一人だけの能力じゃない。
所詮、自分は人数あわせの為に救い上げられたうちの一人。
替えの利かない…大切な人間なんかじゃない。
ふと、脳裏をよぎるのは…自分と同じように最近この寮に入った守沖のこと。
自分とは違い…誰からも羨望の眼差しを向けられる…特別な人物。
…何が…違う? どこが…違う?
どこから見ても、普通の人でしかないのに。
何事にも執着しないガラス玉の様な感情の宿ることの少ない瞳。
そこに映るどこまでも平凡で、日常という名に埋没していくしかできない凡庸な自分。
言葉などにする必要もないほど、自分との間にある差を見せ付けられる。
「…クソっ!!」
沸き起こる衝動のまま力任せに目の前のテーブルを殴りつければ、慣れないその衝撃に耐えかねたかの様に拳に血が滲んだ。
…馬鹿みたいだ、オレ。
いや、馬鹿みたいなのではなくて、…本当に馬鹿なのだろう。
どこまでも愚かで、救い様がない。
だから、こうして…取り残される。
お前など、必要が無いのだと…目をそむけることの出来ぬ現実を突きつけられる。
何もかも…認めてしまえば、楽になれるのだろうか?
全てを受け入れれば…苦しまずにすむのだろうか?
救いのない闇の中、ただ不気味なほど大きな月だけが、苦しみのそこ這い回る順平を照らしているの だった。
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